まあ笑ってくれ。

お前の上司の頭髪を全てもやしに変えてやろう

よのなかにはいろんな人がいる

昔、会社の別部署のお偉いさんに、やたらと厳しい人がいた。

厳しい、って言うのは私に対してで。

どんな小さなミスでも怒鳴るほど叱る。
ミスがなくてもいちゃもんとしか言えないようなことでケチをつけ、
そこに立たせてネチネチと叱る。
そういったことが何度もあった。

私が提出した書類だけ通過せず、業務に支障をきたすこともあった。

元々厳しい会社から来ていた私はあまり気にしていなかったのだが、
ある時、彼の部下に当たる女性と食事に行く機会があった時に
「ごめんね、彼、あなたにだけあんなにきついの。どうしてなんだろう。」
と言われたのだった。

自分にだけきつい、ということに若干傷ついたが、
その次に彼女が言った言葉で、私にコミュニケーションの神が降り立ったのだった。

「彼、Mキャラのおもしろいオジサンなのにねえ~」

なぜだろう。その日私は冴えていたとしか言いようがない。
やたらとピンとくるものがあったのだ。

会社はユルい。
上司と部下の会話も「ええ~見逃してくださいよお」「ダメダメ、ちゃんとやれよ」「もう」
みたいなノリだったが、
それをしり目に、厳しい会社から来た私はどうしてもそのノリについていけず

「失礼いたします、こちら、よろしくお願いします。」

なんて言葉遣いをかましていた。

すると決まってそのオヤジは書類を投げ返して

「なんだこれは、こんなもん見れるか!!」とやってきたわけです。

それで私は

「了解いたしました。では期日までに修正してまいります」と、引き下がっていたわけですよ。


でもその日神が降り立った私はですよ、
翌日から

ワタシ(書類投げつけて)「・・・。」

オヤジ、びくっとして見上げる。

ワタシ「これ。」

オヤジ「なんだこれは!」

ワタシ「はぁ。何日までに見といてください。じゃ」


そして

オヤジ「なんだこの書類は!ぜんぜんできてないじゃないか!!!」

ワタシ「はぁ?・・・どこが(吐き捨てる感じで)」

オヤジ「!!!!!」


私はまるで生まれ変わったかのようにドSの才能を発揮して、
どんどんMオヤジを追い込んであげたわけですよ。

そしたらもうね、1月もたたないうちに、
オヤジは私を見かけるだけでうれしそうな顔をしてね。

ワタシ「(投げつけて)書類。」

オヤジ「うん、期日までに見ておくからね!見ておくからね!」


私がミスった時もですよ、

オヤジ「あの・・・ごめんね、ここ、違ってて」

ワタシ「はぁあああ?」

オヤジ「ご、、、ごめん!こっちで直してもよかったんだけど!できないところだったからさ」

ワタシ「はぁあああ。(ため息)」

オヤジ「すっごい小さいミスなんだけどね~ごめんね~ごめんね~」

ワタシ「(いい加減に修正して無言で戻す)」

オヤジ「ありがとう!ありがとう!」

一見社内イジメのように見えるでしょうか?
しかしこれは!オヤジと私の、いや、下僕と私の、
プラトニックなプレイとも言えるもの
この雹が吹き荒れそうな寒々しい会話の下では魂の交歓が行われていたことを誰が知っていたでしょうか!

オヤジと私の関係は、オヤジが会社を辞めるまで続け、
もちろん、オヤジが辞める日も私は一瞥もしないであげる女王さまぶりで、

この関係性から私はとくに女王様に目覚めることもなく、


人間っていろいろいるよなあ


とだけ思ったどーしょもない経験だったのでした。