私が通っていた大学は、日本のとある場所にある、当時としては珍しかった、意識の高い系大学だった。
何も考えていなかった私はミステイクによりこの大学に入ってしまい、浮きに浮くという憂き目にあった。
同級生たちはみな意識が高かった。
「僕たちが世界を変えないとね」
「プログラミングは、理論的な思考体系を体得するために勉強してる」
とか真顔で言う連中だった。
当時からメガネをたたき割ってやりたいと思うほど浮いていた私だったが、溶け込みたかったので、
「そうだね。GDP的にはTPPをパラダイムシフトが当然だよ」などと答えて事なきを得ていた。
それは、意識高い系がまだ一般人に紛れて生息していた時代だった。
ジワジワ希望を失う世界の中で、勝手に目をキラキラさせて、自分の努力により未来がよくなると信じ、牛糞の中に取り残されたダイヤモンドのように輝いていた。よくわからん例えだが。
そのダイヤモンドたちは氷河期砲によりちり芥になるまで打ち砕かれた。ダイヤのメッキをはがしたら牛糞が出てきたやつとか、牛糞にまみれて牛糞になったやつとか…
とにかく、十数年後、学生時代の仲間とあったらみんなイイ感じにくたびれていた。
私たちはくたびれた氷河期リーマンらしくくたびれながら酒をすすっていた。
その時だった。
隣のテーブルから、弾むような、みずみずしい若い声が聞こえたのだった。
「自分からインセンティブを持って行動しないとね。やっぱり何らかのアクションを起こしたいじゃない？この大学に入ったからには」
マンホールのように光を反射しない瞳をした社会人の群れの中で、キラッキラした、話の内容からして明らかにうちの大学の後輩（20代）がいたのだ。
すでに私の時代の意識高い系たちが氷河に凍り付き、その下の世代はゆとってから悟りきり、静寂が訪れた世界。そこに降り立ったその男は、小うるさく「時代」とか「世界」とかいう言葉をがなり立てた。
絶滅していなかったのだ。意識高い系。
「俺たちも言ってたなぁ、ああいうこと」仲間の一人が静かに口を開いた。
「そうだね」
うちらの中で一番意識高い系だったやつもグラスを回し笑った。
「そうそう。『アントレプレナーシップ』とか好きだったな」
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阪急広告を見た時は、怒りよりも驚きでいっぱいだった。
ちょっとおもしろいとすら思った。「月50万より月30万もらって生き甲斐」とか言ってる80代は眼帯つけてムキムキで葉巻くわえて腕組してその言葉を言っているに違いないと瞬時に思った。
でもまあ、これらの言葉はすべて、経営者側の下心が見え隠れしているのが不気味で、嫌なのだ。もっと働かせるために、もっと搾取するために紡がれた響きのいい言葉。
そして世代ギャップ。上の世代から醸し出されるのほほんとした前向きさ。
もし氷河期世代からハタラク言葉を集めたならこうなったはずだ。
「諦めてしまえば、楽になる」
「時計の針が1分、また1分と進む。大丈夫。帰れる。定時が来ない日はない。生きてさえいれば」
「人権があって仕事がないよりも、人権がなくて仕事がある方を選んだ。それだけのこと」
そういえば、若いころ希望を抱いていた自分は、ちょっと上から褒められていい気になったりしてた自分は、会社にいいように利用されていただけかもしれない。
こういう広告が燃える現象で、思い出すのは、一連の「がんばるお母さんステキ」的な広告。同じように「がんばってる。偉いね。もっとがんばれ」広告が、疲れた頭にガツンとくる。
こんなに豊かな日本でどうしてこんなにたくさんの人が苦しいんだろう。それは、強い誰かが弱い誰かに押しつけた型がたくさんありすぎるからじゃないか。
日本全体から、「こちらが正」と一方的に提示され搾取しやすい「型」にハメられるのはもう充分という悲鳴が上がっているような気がする。
そういう意味では「きれいになろう」「若くなろう」みたいな型ハメも今後は「うるせえ」案件になっていきそうだ。
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ところで、このはらく言葉たち。ホームページもあって、そっちにも色々載っている。
本当にリアル働く人から集めたのだろう。クレイジーなものもたくさんだ。
飛び込み営業って、
世間が言うほどきつくないっすよ。
ある時なんか「飛び込み営業で〜す」って
水泳帽とゴーグルつけて、ドアあけた。
これがね、アタると売れるんですわ（笑）。
通信業/営業・20代
結構面白くて、
もう100万円くらい課金しちゃったんですよね、
自分がつくったゲームに（笑）。
ゲーム/ゲームプランナー・30代
自分の番でトイレットペーパーがきれても
補充ができんようなやつは、仕事もできん。
不動産業/経営者・40代
いいも悪いもなく、ただ言葉を集めたのだろうな。これなら私も参加したかった。
納豆は
職場で食べると怒られる
新入社員に仕事を頼んだら「今眠いんで後でいいっすか」って言われた。
若者は自由でいい
職場恋愛は1社につき1件にしておけ
それなりに働いた私だ。言いたいことの1つや２つもあるんだ。
