まあ笑ってくれ。

お前の上司の頭髪を全てもやしに変えてやろう

バーコード頭は絶滅したのか。

多くのファッションは、一世を風靡している間ですら賛否が両論し、いつの間にか…消えていく。ベルボトム。腰履きパンツ。ルーズソックス。肩パッドもソバージュもアヒル口も、我が物顔でファッションシーンを闊歩した後、いつの間にかそっと息をひそめていった。

 

一方で世の中には、「一世を風靡したけれど一世を風靡している時ですらみんなが『あかん』と思っていた」ファッションというものがある。 

 

それは日本人らしき哀しき慣習、「変えられなさ」がためにいつまでも消えずに残っていた。それはサービス残業や行きたくない飲み会と同じように、「あかんやろ」の声が圧倒しても、しても、そこにい続けた。

 

そう、バーコード頭のことである。

 

子供のころ、バーコード頭というものが不思議でしょうがなかった。

 

「あれはいったいどうなっているのだろう?」

 

どうやって、人間の髪が、あのように水平に生えてきれいに並ぶというのだろう?
私の子供心は好奇心でいっぱいになった。でもおいそれと聞けるものではなかった。答えが出ないまま、私はティーンエイジャーとなっていた。

 

そんなある日、謎は突然とけた。電車内で眠っていたおじさんが答えを見せてくれたのである。

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眠りにより髪が前方に落ちた図



驚いた。

 

私はもっとこう…特別な生え方をしているとか、もっと何か複雑な感じかと思っていたのだ。

まさかこんなにシンプルな構造だったなんて。

 

それと同時に思った。

 

前衛的だ。

 

バーコードは片側のヘアーのみ長く伸ばし、その長髪を丁寧に頭頂に沿って頭にしつらえた、本当にファンキーなファッションだったのだ。

ああ、この髪型はシャワーではどうなるのだろう。寝起きはどうなるのだろう。

 

その後、こういう人にも出会った。

 

 

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バック部分を無視し前部にだけ寄せた奇抜なスタイル。コードが反対側に到達していない。

無限。バーコードの可能性は無限だった。

 

しかし後、平均年齢が若い会社に転職した自分はあまりバーコードと接することがなって、年月は過ぎていった。

 

・・・・・・・・・・・

 

私はこの日、役所に来ていた。

墨田区とか、きれいだなーと思う役所に出会ったことはあるが、うちの区の役所は実に汚くて、かわいそうだ。

あまりきれいにすると区民から「税金の無駄遣い」と言われるのだろうか。広大な庁舎にはわずかに1基のエレベーターがあるのみ。弱い冷房を扇風機で回して、ボソボソのブラインドから漏れ来る日光になんとか抵抗している。椅子には誰由来なのか、蓄積した黒いシミ。私だったらここで働いていたら、モチベーションが上がらな過ぎて出社拒否しそうだ。

 

なんとかして、この職場をもっと楽しそうにする方法はないんだろうか。長い待ち時間の間、私はそんなことに思いを巡らせていた。他の区はしらないが、うちの区役所で出会ったお役人さんたちは誰も親切で、優しい。できたら、もっといいところで働いてもらいたい。

 

じゃあ、ここを丸のうちみたいな、インテリアグリーンが光る美しいオフィスにすればいいかと言うと…

もったいない気がするのだ。

 

この庁舎、すごく古い。中身もめっちゃ古い。使っている調度品も床も壁も天井も古い。

小さくて雑多なデスクも、ゴチャゴチャの棚も、リノリウムの床も、ここは…そう、昭和なのだ。日本中から駆逐されそうになっている昭和の遺構が、ここにある。これはもはや歴史的建造物、いや、歴史的内装だ。これが消えたら…もったいない。

 

でも、そんなにクラシックなら、なぜここがこんなに嫌な感じがするんだろう。

それは、そう、この庁舎の内部が、昭和の嫌な部分の凝縮だからだ。この部屋のすべてから昭和の悪を感じる。足りないのは、タバコの煙とモラハラ怒号ってくらい、悪しき昭和の光景なのだ。

 

私は歴史が大好きだから、古いものを安易に変えてほしくない。でもここは陰気で辛い。

でも古い陰気さを楽しくする方法がある。ファンタジーにしてしまうのだ。ディズニーリゾートが一歩違えばスラムと言える街並みにインスパイアされた場所をオシャレ化してアトラクションにしているのも、徹底的なファンタジー化によってだ。

ここを昭和ファンタジーの場所にしてしまえばいい。入った人がタイムスリップしたような気になれるよう。入り口ではブルーライト横浜を流そう。横浜じゃないのに。

 

だけど、それ以上は手を施しがたい。

本当なら、水蒸気で煙さと埃っぽさを演出したいところだけど、アニメでタバコくわえるキャラもNGとされる昨今、それは役所では通らないだろう。

怒号を飛び交わせるのも難しい。

 

そこで人だ。女性には制服として肩パッドを支給して、窓口に立つ前に肩パッドをオンしたらおもしろい。仕事の間だけ真っ赤な口紅とかしてくれたらすごくうれしい。

でも男性…これは難しい。スーツの形はあまり変わっていないから。

 

 

ではどうしたらいいだろう‥‥あっ!そうだ!バーコードカツラだ!

 

窓口に出る男性はバーコードカツラをつける。すると、ものすごい昭和感が出ると思う。

ゴチャゴチャ書類が積まれたデスクからバーコードのおじさんが立ち上がって応対に来たら、オーバー40なんて、きっと心の中で聖子ちゃんが流れて涙が出てくるだろう。もちろん腕にはカバーを付けてペンは耳にはさんでほしい。ああ懐かしい。

 

 

 

そこで本題である…あれ、バーコードって懐かしいじゃん。

バーコードって、いつの間にか全滅してるじゃん。

 

私が最後にバーコード頭を見たのはいつだろう?あれはバーコードといえるのだろうか。ソフトモヒカンよりもソフトバーコードだったな。

 

バーコード、全滅してません?少なくとも、昔のようなきれいな、いや美しいバーコードはもう何年も見ていません。

今の若い人は、あの輝く額の上にキレイに並ぶ太さの異なる黒線が混在した…芸術のような髪型を見たことがないのでは?

 

そんなことから…自分が見ていた光景がどんどん歴史と変わっていく実感があったのでした。

 あなたの周りにはバーコード頭はいますか?