昔のことです。
いつものようにすることもなく社内をフラフラと散歩していたら、通路の隅に何やら妙なものがあるんですよ。皿の上に飯の山みたいななんか。
皿?
通路なのに、皿?
あ、これ盛り塩ってやつか。
さらに反対側からは何かの香りと細い煙が。
え、お香?お香と盛り塩?
お香や盛り塩に対する知識が乏しく、とにかく何かしらの儀式に使うものだと認識していた私はその場で
「ここなんかデタ場所だ!」と思わず声に出してしまった。
そして
「なんか煙出てる!なんか香焚いてる!」と、
香りのせいだろうか、興奮状態になりながら通路をかけぬけていった。
その時、隣の部署のギャル先輩にガッチリと両肩を掴まれ止められた。
「やめなさい」
彼女は私を落ち着けると言った。
「ご覧なさい、あのお香と塩のポジション。あの中間に位置するのは間違いない、行動力抜群の元アイドル先輩。つまり、あれらの儀式アイテムは、元アイドル先輩が設置したものだということよ。」
そしてギャル先輩は言った。
「よいこと?
長いものには巻かれなさい。
巻かれて巻かれてグルグルのすまきにおなりなさい
あなたは今から、
この通路を歩いていって、
大きな声で
『いい香り。運気が上がる気がするわ」』と言うのよ。」
*******
それから十数年。
私は先輩の教えをまもり、何か長そうなものがあればとにかくグルグルと巻かれてきた。
とくに、世間の波には巻かれるよう気を遣った。
AKBが出だした頃は「何あれ?受け付けないな」と言い、
紅白に出る頃には「AKBちょうかわいい」と言った。
本当のところ、坂が量産されすぎて、どれがどの坂か見分けがつかないけど、「中でも乃木坂が一番だよね」とか言って世間に迎合してきた。
「鬼滅の刃そこまでおもしろい?」とは断じて言わなかったし、
メンバー1人もしらないけど「スノーマンかっこいいね!」と言った。
でも、本当は心の中で思ってた。
「雪だるま…って…」って。
そして今、NiZiuがいる。
昼も夜も我が家で流れ続ける Make you Happy
キリギリスだった娘がやっとやる気になって通ってるダンス教室。その課題ダンスもやらず、縄跳びダンスばっかりやりやがる。
挙句の果てには次女までマネしだして、
2人とも英語わかってないから
「ふぁなふぇいっきゅーはっぴーあっのー」なんて出鱈目に歌いながらビョンビョンビョンビョン跳ね腐りやがって、それのどこが縄跳びなんだよ、それじゃお縄が通らねえよ、ってね。
「ママも、ニジューすき?」
「うーん、まぁまぁ好きだよ」
今の我が家で最もながいものは長女と次女である。私は今もグルグル巻かれている。
だがぶっちゃけ疲れた。そろそろエンドレスリピートが過ぎて、以前のUncle JAMに殺意感じてた頃みたいになってる。
っていうか。
はぁ?
うっあーーー
やめぃ。
ベレー帽かぶって木の後ろから覗くのは何なの?昭和なの?一周回って新しいんですか?
レトロカムバック風演出なら、背景に緑の花柄のポットとか置いてくれないとオバチャンわからない。
キックボード乗ってるところといい、自主製作映画並みの「その辺」で踊り狂ってる感じといい、ガールズの笑顔といい、このミュージックビデオには古臭さが漂う。
思えば、いっときブーツカットが少し流行った時、私たちの親はこんな気持ちだったんじゃないだろうか。
いやそれ、呼び方変えてますけどベルボトムやん。
私たちがさんざん着倒して飽きすぎて見るだけで気持ち悪さを催すほどになったベルボトムやん。
何知らない世代のところにしれっと舞い戻っとんの、キモいんですけど。
ってなったんじゃないだろうか。
昔、若者文化は何でもディスるジジババっていた。
そうはなるまいと思っていたけれど、思えばこうやって若い世代に置いていかれるんだろう。
本当のことを言うと嵐の時点で置いていかれていたんだ。認めたくなかっただけ。