この数ヶ月、子どものことで度々大学病院に通っていたが、とうとう
「一応完治ですね。再発したら手術することになっちゃいますが…もう会わないことを祈りましょう笑」と先生に言われ、晴れて病院通いを卒業することになった。
ああよかった。私は子どもを抱きしめて立ち上がった。
思えば病院通いはつらかったけれど、先生たちには本当によくしてもらった。先生たちにかけてもらった言葉・思いやり。どんなに助けられたことか。
もう会わないことを祈るなんて、寂しいことではないか。
慌てて荷物をまとめて準備しながら私は口早に言った。
「レストランとか、外とか、そういうところでまた」
一瞬、微妙な空気が漂った。
けれどその時私はほとんど気にしていなかった。あとは昼ご飯を食べておせんべいとワッフルとポテトチップスとタピオカミルクティーを買って帰るだけだ、などとすでに目先の家事のことに意識が移っていた。
と、診察室を出てから私は立ち止まって、先ほどの微妙な空気を思い出した。
「レストランとか、外とか、そういうところでまた」
おいおい。口説いてるよ。
医学生たちの前で(比較的若い)(比較的シュッとした)先生に、愛人宣言みたいなこと言ってるよ。
レストランとか外とかってどこだよ。
なんでまた会うんだよ。
自分の脳内解説がなかったらまったくの意味不明発言だよ!
学生たちの前で愛人宣言みたいなのして出て行ったよこのおかん!!
もう嫌だ。キノコに生まれ変わりたい。
こんな時は太宰の一説を思い出す。
恥の多い生涯を送ってきました。
っていうか、太宰ってこれと「メロスは激怒した」しかしらんけれど。
そうだ。あの時私は、病院の中にあるちょっとステキなレストラン・カフェエリアを頭に思い浮かべていたのだ。
会うとしたら、診察室じゃなくて、そういうところですれ違うんだったらいいですけどね、と思ったのだ。
かくして「レストラン」。
でもその時ふと、病院のレストランエリアで会うってことは病院来てるってことやん。あかんやん。そう思い、「外」と付け加えた。
どちらも爆死である。
もういやだ。キノコになりたいシメジになりたい。あの美しく規則正しい傘をいただいたシメジになるんだ。シメジじゃなかったら鬼テングタケ。毒をまき散らす。もしくはマッシュルーム。白くてすべすべして丸い、きれいなきれいなマッシュルーム。でもマッシュルームってそのままキノコの意味だよね。あのキノコの本当の名前はいったい何?
こうやって今日も何の話だったか忘れていく。