まあ笑ってくれ。

お前の上司の頭髪を全てもやしに変えてやろう

薬屋のおやじが冷たくなった

薬屋のおやじが冷たくなった。

 

 

かれこれ6,7年暮らしている家の近所にある薬局のおやじである。

 

 

年齢は70代後半だろうか。薬剤師である。おやじはものすごく面白くて、よく話しかけてくれた。

 

…。よく、話しかけてくれた。

まあまあ若いころは。そしてフルメイクの時は。

 

そう、親父は気合の入った、イケている日にだけ話しかけてきた。

私は愛と化粧の力で美女戦士に変身する秘密の力を持つ魔法女。だからだろう。変身前の普通の女としておやじと接すると、それはそれは並みの接客をされた。

気合メイクしてる日と普通メイクしてる日のおやじの態度は別人のように違った。普通メイクの日は自分が空気になったように感じた。

あたし。あたしよ。週1くらいで来てるとあたしとがっちりベースメイクキメたあたしは同一人物なの。おやじマジでほんとに気づいてないでしょ。


でも、美女戦士に変身してから店を訪れるとおやじは楽しそうに話しかけてくれた。
もちろん美女戦士にとって正体は秘密だから、これでいいのだけれど。

 

おかげさまで、私はおやじをイケてるバロメーターにした。気合入れて外出した日、おやじが話しかけてくればOK。

 

 

 

でもおやじが私に最後に話しかけてきたのは数年前だ。おやじの見る目がなくなったのか私の変身能力に陰りが見えたのか…。最後の会話はこうだった。

 

おやじ「ハイ、おつり」

私(変身後)「あっ忘れるところだった」

おやじ「もぉ~困っちゃうよぉ、おじちゃんおっかけないといけないところだったよ。女の人追いかけるのは大好きだけどさぁ~」

 

おやじ…覚えてるかな。その前に会話したのは半年前だったんだよ。「ポイントカードないのぉ~?いいよいいよ探しなよ、待ってあげるから~」って言ってくれたよな。

おやじと話す頻度は年を経るごとにどんどん減っていった。

 

おやじは、キレイな女が好きなのだ。

 

 

この間娘を連れて行った時のこと。

 

「お嬢ちゃん、大人になったらおじちゃんと結婚してくれない?あと20年くらいかな?おじちゃん頑張るよ~」

 

おやじ頑張りすぎだし守備範囲が広すぎる。

 

ハッキリと評価を下してくるこのおやじ。憎いがおもしろすぎて憎めぬ。

 

でももう2度と話すこともないだろう。バイバイおやじ。私は魔法を失った。